2021年7月15日(更新)

ハワイ島の風


世界を旅した2人、なぜハワイ島にハマったのか

「ハマった」としか言いようがない。

五大陸50か国を旅した夫婦が、ベタなハワイの虜になってしまった。

そこまでの道のりをここの読者だけに告白しよう。
幼いころから科学の子であった隆平は、芸術・体育系にも秀で神童の名をほしいままに育った。

ところが、気づけば凡人に成長し、平凡に教職に就く。

厳格な教育姿勢とユーモアを併せ持つ教師であったが、50歳を過ぎたころ身体にガタが来て退職。

その後は、旅とパソコンを駆使した各種調査に時間を費やしている。

「石岡繁雄の志を伝える会」(かの有名な井上靖『氷壁』のモデルとなった「ナイロン・ザイル事件」の石岡繁雄)の会員でもある。


幼いころから数々の失敗を友としたはつこは、小学5年生からの夢を実現して教職に。

そこでも失敗に磨きをかける。

子どもたちへの愛情絶頂期に早期退職。

その後は、小説・エッセイ・詩・川柳と節操なく文筆を楽しむ。

旅と「石岡繁雄の志を伝える会」は隆平と同じである。


さて2人の旅であるが、現役時代から短くは2週間、長くは1か月の自由旅を年に1~2回続けている。

キエフのトイレに閉じ込められた騒動、チャウシェスク政権崩壊直後のルーマニアの貧しさと混乱、荷物が届かなくて着た切り雀で2週間過ごしたペルー、宿泊しろと迫りハンマーを持って追いかけてきたブルガリアのおじさん、ピサとナポリでは定番の犯罪被害に遭い……等々、山ほどの思い出がある。

田舎を旅することが多かったこともあり、純朴な優しさや善良な親切に触れることが多かった。

反対に、明らかな差別的言動を受けることもあった。

良いも悪いも引っくるめて、外に出てこそ経験できる刺激が旅にはある。

だからやめられない。

次はどこへ行こうかと計画する段階で旅は始まっていた。
ところが、である。

ひょんなご縁でハワイ、と言ってもハワイ諸島の最南・ハワイ島だが、繰り返し通うようになる。

はじまりは普通の観光だったのに、どこへ行っても日系移民を意識するようになる。

オアフ島はそれ以前に2度訪れていて、ハワイが日本とつながりが深いことはもちろん知っていた。

でもハワイ島には、移民の歴史をハンパなく感じさせる物・事・人があふれていた。

かくして、移民の苦難の歴史と生活を向上させようとするエネルギーを正しく知りたいと考えた2人の、ハワイ島通いが始まることになる。

島内各地に現存する36の日本仏教寺院と移民とは切り離せない。

そこで寺院めぐりをするようにもなる。

本作は、島内すべての寺院を紹介する本として日本初かつ唯一のもので、知的興奮を保証するガイドブックを超えたガイドブックだと自負している。
2人は今、「ハワイ島編」に続いて「マウイ島編」を企画中。

近い将来、また皆さんにお届けしたいと張り切っている。(2021年5月26日)


日系人の家庭料理「ニシメ」

ニシメ
ニシメ
レシピ
レシピ

『アロハの島の寺めぐり』では書けなかった・アロハの島のこぼれ話(No.1)

 

日系人の家庭料理「ニシメ」を取り上げてみたい。
ハワイ島の食べ物で日系人にゆかりのものと言えば、カフェ100のロコモコ(ロコモコ発祥の店)、スイサン・フィッシュマーケットの本当に美味しいポケ丼が有名。

KTA(スーパーマーケット)に行けば、ニシメ、スシ、ムスビ、ソーメン・サラダ、モチ、アンパン(甘いパンの総称)などが手に入る。
食材では、豆腐や蒲鉾など日本料理に馴染みのものが現地生産されており、そうでなくても海苔やふりかけ、調味料……ありとあらゆるものがスーパーに陳列されている。
筆者はポケ丼の旨さの虜になってしまい日本に帰ってから作ってみたが、ポケというよりも漬けマグロになってガッカリした経験がある。

あれこれ挑戦した結果、アロハ醤油を使うのがコツだと分かった。

刺身は仕方ないとしても、ハワイの食べ物はハワイ産の材料で作るのが一番、ということ。

 

似た経験が、もう1つある。
それは、お正月とか法事とかには必ず日系人の家庭で料理されるというニシメ(煮しめ)。

正月前後をヒロで民泊したときに、宿のNさんが食べさせてくれた。

その美味しかったこと!

著者の家でも煮しめは作るけれど、こんなに美味しくできたことがない。

さっそくレシピを教わった。

日本では一般的に、煮しめには鶏肉を入れることが多いが、沖縄出身の日系3世であるNさんは豚肉を使う。きっと、その違いだと思った。
帰国して作ってみた。Nさんが書いてくれたメモを前に、食材も量も寸分違わずに。

ところが違う、違うのだ。

ポケに続いてまたもやガッカリ。きっとこれも、ハワイ産の野菜とか豚肉とか調味料ではなかった、からだろう。

参考までに、Nさんのレシピを紹介しておこう。

<材料>

油:小さじ3

スライス豚肉:1ポンド(約453.5グラム)

にんじん:大1

コンニャク:1

サトイモ:大3

タケノコ:1

乾燥椎茸:6枚(水に浸しておく)

生椎茸:4(好みで)

煮しめ昆布:1袋(洗って結ぶ)

ショウガ:3片(砕く)

ゴボウ・レンコン・ダイコン:各1

ソース(しょう油・砂糖各1/2カップ)

<作り方>

①油とショウガで豚肉を軽く炒める

②ソースを加えて沸騰させる

③サトイモ以外の全ての材料を入れて煮る

④半分調理したところで軽く混ぜる

⑤椎茸のもどし汁とサトイモを加える

⑥軟らかくなるまで煮る

 

先日、行きつけの店で豚の角煮が半額になっていた。

豚肉の代わりにそれを使ってみたら……、あら不思議!

Nさんの味に結構近いではないか。どうしたこっちゃ。(2021年6月7日)


海苔巻き寿司

『アロハの島の寺めぐり』では書けなかった・アロハの島のこぼれ話(No.2)

 

ハワイ島のスーパーやレストランでは定番メニューの「ノリマキ」。

ハワイ島に滞在する旅行者なら一度は口にするだろう。

具材は様々で色彩豊か、味もよい、ときている。
家庭で作る場合は、商品の海苔巻きのように目を引くものではない、むしろ地味でシンプルな海苔巻きである。

著者がご馳走になった手作り海苔巻きを紹介したい。


ある日系3世の女性が、お正月に兄の家へ持参するという海苔巻きをおすそ分けしてくれた。太さは日本と同じくらいで、キュウリ・干瓢(かんぴょう)・卵焼き・カニカマ・椎茸・人参が入った豪華版だった。
カウ地区(島の最南地域)の日系4世のある家庭では、干瓢・卵焼き・ツナを巻いた細巻きをいただいた。

近所に、ユウガオを育てて干瓢を作る男性がいるそうだが、その日は、ユウガオの細切りを生のまま炊いて味つけしたものだった。

厚みはあるのにとても柔らかい、上等の干瓢になっていた。
寺の行事の後で振る舞われたのはキュウリ・干瓢・田麩・卵焼き入りで、見た目は日本の家庭で作るのと変わりない。

女性信徒さんで作る婦人会による手作りだった。 
どれも、酢が薄くてご飯が少々柔らかめだ。
そして、どこでも同じ質問をされた。

「日本の味になっている?」「スシになっている?」と。

「大丈夫、同じ。おいしいです」と答えた。

日本と同じ味かというと微妙だが、確かにおいしかったから。

日本そのものでないのは、材料の違い(日本産ではない)が影響しているのかもしれないが、それよりも1世から受け継いできた製法が年月の経過で「ハワイの日本味」を創りだしたように思える。

彼女たちが、1世の味を再現したい、正しく受け継いでいきたいと願って質問したのなら、著者は正直に答えるべきだったのだろう。

しかし、正しい伝統継承を求めるか、ハワイ風味ができあがった歴史経過を尊重するか、著者は今、価値基準の置き場所に迷っている。(2021年6月14日)


ラウラウの謎

『アロハの島の寺めぐり』では書けなかった・アロハの島のこぼれ話(No.3)

 

「ねえ、ジョー、あのガマガエルの鳴き声みたいなの、何?」
ブオ~、ブオ~と響く声が屋外から聞こえている。
「あ~、あれは野生の豚の鳴き声だよ」
おかしなことを言うジョーは、アメリカ本土生まれの現ハワイ在住。

野生豚なんて冗談を真面目くさって言う。

その数日後、コハラ・マウンテン・ロードでひき逃げにあった動物の死骸を目撃した。

色が黒くて小型で、豚の様相である。

しかし、どこがどうと説明しがたいが飼育豚とは思えなかった。

もしかして、野生?

ジョーの冗談はジョーダンではなかったのかも。

野生豚の存在。ちょっと興奮。

さらに、町中を闊歩する豚を見かけたのは、ヒロの住宅街。

道路と民家の境に沿って続く草むらに、鼻先を突っ込んでいる黒い豚たち。

3頭だった。放し飼いの豚? んな訳ない。

やっぱ、いるんだ、野生豚。激しく感動。

その後は、ちょくちょく野生豚に遭遇するようになる。

すると、次第に慣れっこになり、ブッシュの陰の黒い一団を発見してももう騒いだりしなくなった。

野生豚への私の関心は、存在よりも美味かどうか、誰も捕まえて食べないんだろうか。

その点に移っていた。再びジョーに聞いてみる。
「飼育豚より美味しいらしいよ。捕まえたらラウラウにするんだ」
大げさな身振りをつけて言うと、ぷっと吹き出したジョー。
ラウラウは、ティーリーフとタロの葉で豚肉を包んだ蒸し焼き料理。私の大好物だ。

スーパーに行けば必ずおいているけれど、お店で食べた方がおいしい。

もっと美味なのは自家製を売っているキッチンカーとかファーマーズ・マーケット。

桁はずれにうまい。
ジョーは言う、「試しに捕まえてきて、料ってみたら? 僕は食べないけどね」
やっぱり、冗談だったのかしら。

<野生豚の豆知識>
ハワイ島にはもとから野生の豚がいて、狩りをして食用にしていた。

後世、西洋人が土地改良のために持ち込んだミミズが格好の餌となり、野生豚の数が増えたと言われている。ただし、豚と言ってもイノシシに近いものらしい。(2021年7月15日)